MAD24を頂点とするMADシリーズには、従来のマルチドライバーイヤホンのコンセプトとは異なる、MAD(Main Audio Destination)と呼ばれるクロスオーバーネットワークレスの構造が盛り込まれている。Ambient Acoustics社のIuliia Kochevykh(ユーリヤ・コチェヴィフ)CEOが、この新しい哲学で表現したかったものとは。
新たな構造に挑戦したIEM。
ユーリヤ・コチェヴィフCEOは開発の経緯についてこう話す。
「ブランド設立当初からすでにマルチドライバーの優位性に着目していました。私たちの最初のイヤホンは4BAを搭載していましたが、これは当時としては画期的なことでした。当時から、更により多くのBAを搭載することは、圧倒的な音質メリットがあるように予感していました。」
一般的なマルチドライバーイヤホンのクロスオーバー設計では、マルチウェイスピーカーの設計と同じ手法が使用されている。ところが、イヤホンのカスタムシェルは人の耳の大きさによって制限されてしまう。そのため、周波数分割は最もシンプルな1次フィルタを使用して行われる。
これらの1次フィルターは、実用的な周波数帯域を制限するという役割を果たし、線形な周波数振幅特性を持つ上、何よりも実装が容易だ。これにより、マルチドライバーのイヤホンで、スムーズな周波数振幅特性を実現することができる。
見えてきた課題。
「しかし、ユニットが増加し帯域分割が複雑になっていけばいくほど、最終的に得られる周波数振幅特性はスムーズなはずなのに、実際の聴いた印象ではスムーズと感じられなかったのです。このような数値上の整合性と人間が実際に受け取る感覚との相違は、マルチドライバーを実装する上で大きな課題となっていました。」
これは、パッシブフィルターが伝送帯域では線形な周波数振幅特性を持つ一方で、完全に非線形な周波数位相特性を持つためだった。つまり、信号がフィルターを通過するためにかかる時間は周波数に依存する。そのため、フィルターバンドの接合部で一部の周波数は他の周波数に比べて「遅れて」あるいは「先行して」いる状態が発生してしまう。
このため、低域から高域まで様々な周波数帯によって構成される音楽を再生する場合、ドライバーの再生範囲と人の耳の全体的な音の知覚が「一致しない」と感じられるのだ。結果として、音像が「断片的」だったり「分離している」「まとまりがない」といった印象を与えてしまうという。
「マルチドライバーの構造を持つイヤホンを設計する各メーカーは、イヤホンの位相歪みを各々の方法で補正しているものの、周波数帯域の位相整合性を理想的に調整することは、パッシブフィルターが存在する限り難しいでしょう。」
余計なものを削ぎ落とす。
このため、Ambient Acousticsは、周波数帯域の分離を達成するために新しい独自の設計アプローチを開発することとなった。こうして生まれたのがMADコンセプトだ。
この新しいアプローチでは、電気的なパッシブフィルターの使用を一切やめ、各ドライバーの周波数振幅特性の自然な減衰特性と、音響フィルターによる音響負荷によって周波数帯域の分離が行われる。
これにより、イヤホンの構造においてコンデンサやインダクタンスを使用することにより発生する電気的位相歪みを回避できる。この新しいMADの設計を用いたモデルは音の「融合」と「一体感」が向上し、インピーダンスの線形性がほぼ完全に音源の音の特性に依存しなくなったという。
とはいえ、各周波数帯は正確に分割されていなければ、最終的に理想的な周波数振幅特性になりえない。
「24個ものBAユニットをアコースティカルに調整し、4つの帯域に完璧に分割するためには、コンピューター上での膨大なシミュレーションと、実機での測定によるテストとを繰り返し行う必要がありました。」
Ambient Acousticsが求める音を実現するために、ユーリヤ・コチェヴィフCEOと開発メンバーは何度も改良とチューニングを重ね、開発を行ってきた。
その結果、「アーティストの息遣いや気配までをも再現し、多くの音楽ファンに楽しんでいただける音が完成しました。」とユーリヤ・コチェヴィフCEOは自信をのぞかせる。
MAD24でしか聴くことのできない音楽体験をあなたに。
Ambient Acoustics社のフラッグシップとして君臨するMAD24は、単に多くのBAが搭載されているというだけではなく、その圧倒的な音質を追究するために、既存の技術にとらわれず、多くの試行錯誤と挑戦によって実現された。
「Hear your individuality.(あなたの個性を聴く)」という旗のもと、多様化するユーザーのニーズに向けて、最高の音を体験できる製品を追求するAmbient Acoustics。
そのなかで、MAD24では従来のマルチドライバーの優位性を最大限活かしながら新たな構造を生み出すことで、最高の音楽体験を追求し、新しい価値観に挑戦している。