binom-erとゆくオーディオブランド巡り
国産ハイエンドオーディオの最前線を訪ねて
CAMERTONのフラッグシップヘッドフォン「Binom-ER」を携え、日本が誇る二つのオーディオブランドを訪問しました。埼玉県深谷に拠点を構えるアンプメーカー「Dvas」と、群馬県のオーディオメーカー「ブリスオーディオ」。それぞれの工房で、Binom-ERの音を通じた対話が生まれました。
深谷の音匠「Dvas」訪問記
埼玉県深谷市に本社を構えるDvas(ディーバス) は、ヘッドフォンアンプの新進気鋭ブランドとして国内外で注目を集めています。創設者である桑原氏が追求するのは、ヘッドフォンの持つ本来の音楽性を引き出すアンプ設計。ミニマルな筐体に込められた技術と哲学は、多くのオーディオファンを魅了しています。
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今回の訪問は、2月8日に開催された「ヘッドフォン祭mini」での縁が きっかけでした。会場で桑原氏から「Binom-ERをぜひDvasのModel2で試してみたい」というお声掛けをいただいたものの、イベント当日は他社ブースの訪問が難しく、またBinom-ERの整理券も早々に配布終了。そこで改めて実機を持参し、Dvas本社での試聴が実現しました。
試聴に使用したのは、Dvasの主力製品「Model2」ヘッドフォンアンプと、開発中の「Model3」プリアンプの試作機。Binom-ERの音を聴いた桑原氏の表情が、徐々に変わっていくのが印象的でした。
桑原氏によれば、Binom-ERは「Dvas本社に配備している他のどのヘッドフォンとも基本的な立ち位置の異なるサウンド」とのこと。特に印象的だったのは、「非常に柔らかい音質でありながら、細部の情報を細大漏らさず拾い上げる解像度の高さ」だったそうです。
「情報量は豊富でありながら、解像感の不足や鮮度の欠如を感じさせることなく、豊かな低域再生を楽しめる」という評価は、Binom-ERの設計思想を理解した的確なものでした。また「ボーカルなどの情感再現力が非常に高い」という指摘は、歌をこよなく愛する桑原氏ならではの 視点。「切々と訴えかける女性ボーカルに抗しがたい魅力を感じた」という言葉からは、音楽との深い対話が生まれていたことが伝わってきます。
さらに音場表現についても「様々な音が乱舞するというよりも、ナチュラルな広がりと落ち着いた音像の配置を聴かせてくれる」と評価。これはBinom-ERが目指す「空間を再現する」という設計目標が、確かに達成されていることの証左と言えるでしょう。
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筆者自身、Binom-ERがシステムの特徴を音に反映しやすいヘッドフォンだと感じていましたが、今回のDvas訪問でその印象はさらに強まりました。特にModel2ヘッドフォンアンプとModel3プリアンプの組み合わせは、Binom-ERと見事な相性を示しています。Model2の透明感のある駆動力とModel3の豊かな音場表現が、Binom-ERのポテンシャルを余すところなく引き出しているように感じました。
Dvasの製品設計に対する姿勢と、Binom-ERの音楽表現。双方の哲学が深谷の静かな試聴室で響き合った瞬間でした。
このような高度な組み合わせを体験するのは通常なかなか難しいものですが、読者の皆様にとって朗報があります。本稿執筆時点(2025年2月25日現在)で、オーディオユニオンハイエンドヘッドホン館にて、BinomERとDvasの製品を組み合わせた試聴が可能となっています(3月9日まで)。音の職人たちが追求する世界を、ぜひ皆様の耳でお確かめください。
DvasのWebサイトはこちら
音の導き手「Brise Audio」訪問記
続いて訪れたのは、群馬県に拠点を置く「Brise Audio(ブリスオーディオ)」。国内外のオーディオファイルから絶大な支持を得る日本を代表するオーディオブランドです。ピュアな信号伝送への探求心と匠の技が息づく工房で、Binom-ERのサウンドをお披露目しました。
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Brise Audioはこれまでも数々のハイエンドヘッドフォン向けにアフターマーケットケーブルを手掛けてきた実績があります。今回の訪問では、Binom-ERの音の特性を理解していただくとともに、将来的な可能性についての対話が生まれました。
興味深かったのは、訪問時に撮影した一枚の写真。Binom-ERとBrise Audioの持つ高品質な素材が並ぶその構図から、新たな協奏の可能性が垣間見えるようでした。Binom-ERのポテンシャルをさらに引き出す特別なケーブルの誕生は、オーディオファンの期待を大いに膨らませるものになるかもしれません。
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訪問のもう一つのハイライトは、Brise Audioが取り組む「FUGAKU」プロジェクトの開発現場を垣間見る機会に恵まれたことでした。「アルティメットポータブルオーディオシステム」と銘打たれたこの野心的な取り組みは、ポータブルオーディオの常識を覆す革新的な設計思想に基づいています。
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研究室のような整然とした作業場に置かれた開発基板からは、完成品からは想像もつかない複雑な回路構成が見て取れました。何層にも重なるプリント基板、厳選された各種パーツ、そして細部にまで行き届いた配線処理。それらすべてが、音質を追求する開発者の執念とも言える情熱を物語っていました。
Brise AudioのWebサイトはこちら
終わりに
Binom-ERを携えた今回の訪問は、日本のオーディオ文化の奥深さを再確認する旅となりました。 埼玉と群馬、二つの工房で出会った職人たちの眼差しには、音への飽くなき探求心が宿っていました。
音を媒介とした対話は、新たな創造への種を蒔くこともあります。今回の訪問がどのような形で結実するのか、今後のDvas、Brise Aduio、そしてCAMERTONの動向に注目していきたいと思います。
日本のオーディオブランド巡りは、これからも続きます。
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